Blockstreamによるライトニングネットワーク実装の最新版、「Core Lightning v26.04 "Negative Routing Fees"」がリリースされました。本リリースでは、Core Lightningノードの柔軟性とプライバシーが向上し、大規模運用のさらなる効率化が図られています。
A Standing Splice-Ovation: 解放されたチャネル流動性
今回のアップデートで最も注目すべきは、これまで試験運用されていた「スプライシング(Splicing)」が正式にサポートされたことです。これはまさに「スタンディング・オベーション」ならぬ「スプライス・オベーション」で迎えるべき、ネットワークのあり方を一変させる重要なマイルストーンです。
スプライシング(Dusty氏が提唱)のコンセプトは、非常にシンプルです。それは「ライトニング・チャネルのサイズを、運用中に自在に変更できる能力」です。この機能は、ライトニングの利便性を根本から向上させる、数多くの実用的なメリットをもたらします。
従来、チャネルのサイズ変更には高コストな「閉鎖」と「再開」の手続きが必要でしたが、スプライシングはこの工程を不要にします。これにより、運用コストの削減、管理の簡素化、そして遊休資本の最適化が実現します。スプライシングは、最小限のコストでライトニング口座間の直接的な資金移動を可能にするのです。さらに、「中央集権的な流動性提供者」への依存を脱却し、各ノードの独立性を高めることで、ネットワーク全体の堅牢性も向上します。
Core Lightningにおけるスプライシングの導入により、流動性管理は「中断を伴う作業」から「継続的で動的なプロセス」へと進化します。ノード運用者はチャネルを閉じたままにすることなく、以下の機能を通じてダウンタイムとオンチェーン手数料を抑えたリバランシングが可能になります。
- splicein: チャネルへ手軽に資金を追加入金(チャネル容量を拡大)
- spliceout: チャネルから資金を出金。さらに、チャネル識別子を指定することで、2つのチャネルを跨いだスプライス処理も可能です。
- Cross-splicing: チャネル間で流動性を直接移動。
Core Lightningの有力なオープンソース貢献者であるDustyDaemon氏は、2022年のコンセプト段階から、今日のネットワーク変革に至るまで、スプライシングの開発を牽引してきました。これは、ライトニングおよびCore Lightningに対する並外れた長期的なコミットメントの成果です。
Dusty氏は次のように述べています。
「本リリースは、大規模かつ多チャネルにわたるスプライス処理が、完全にテストされサポートされた初のバージョンです。例えば、dev-spliceコマンド一つで、5つのチャネルから資金を引き出し、同時に2つのチャネルへ入金するといった操作が可能になります。スプライシングは、高度なチャネル・ルーティングを実現するために、ついにその真価を解禁されました。この強力な機能を活用し、ノード運用の効率を最大化してください」
経理業務をより盤石に(Respect the Bookkeepers)
Core Lightningの「bookkeeper」プラグインを改良し、国際的な会計基準への適合性を高めました。これにより、ノードの活動履歴を仕訳帳や総勘定元帳として管理し、監査に対応可能な記録として保存できるようになります。
前バージョン(25.09/25.12)の更新をベースに、以下の機能を追加しました。
- 各帳簿イベント発生時の「ビットコインから法定通貨への換算レート」を記録。
- 収入サマリーの柔軟な作成。タグ機能により、自社の会計基準に合わせたフォーマット指定が可能です。
currencyconvertプラグインの参照ソースから、現在のレートを容易に確認。
支払いの確実性を向上:データに基づいたルーティング
ルーティング(経路構築)の改善は、開発の最優先事項です。決済ネットワークにおいて「支払いの成功率」こそが、最も重要な指標だからです。
本リリースでは、以下の改善により成功率を向上させています。
askreneエンジンにおける並列パス探索アルゴリズムの最適化。- 決済フロー全体の再試行ロジックの高度化とバグ修正。
- 「フロント・ノード(fronting nodes)」を介したルーティング制御の強化。
また、xpayでの支払い時にpayer-noteを付与できるようになり、送金にメッセージを添えることが可能になりました。
チャネルとオファーの透明性向上
v26.04では、ノードの状態把握を容易にする以下の機能改善が含まれています。
listpeerchannelsにおいて、channel_idによるフィルタリングをサポート。- オファー(Offer)関連のRPCが、デコード済みの詳細情報を直接提供。
- フロント・ノードを介したBOLT11およびBOLT12フローのサポートを拡張。
これらの変更により、デバッグ作業や上位アプリケーションとの統合における開発者・運用者の負担が大幅に軽減されます。
より軽量で高速なノード(A Leaner, Faster Node)
Core Lightningは、効率性とスケーラビリティの追求という伝統を継承しています。
- バイナリサイズを約20%削減。
- ゴシップ・ストアの圧縮処理をオフロード化し、起動時間を短縮。
- リングバッファの最適化による、より効率的なロギング。
- データベースおよび実行時のオーバーヘッドを低減。
これらの改善は、大規模ノードにおいて、より高速な同期とスムーズな動作として現れます。
開発者体験の刷新:高機能かつ低摩擦に
本番環境での開発・運用を支援する以下の機能が追加されました。
clnrest-register-pathによる動的なRESTエンドポイントの構築。- 同期型の
bcliプラグインによる、ビットコイン・バックエンドとの対話の簡素化。 - 複数の値を許容するプラグイン・オプション(
"multi": true)の導入。 STRICTテーブルによる、厳格なデータベース安全性保証。
Core Lightningは最も拡張性に富んだライトニング実装であり、これらはv26.04における開発者支援への投資のほんの一例です。
プライバシーとプロトコルへの準拠
本リリースでは、ネットワーク上の相互運用性を確保しつつ、監視に対する耐性を高めるため、ライトニング・プロトコル(BOLTs)およびプライバシーに関する最新の要件との整合性を強化しました。
- レガシー形式の廃止: 旧式のオニオン形式を削除し、現在のエコシステム標準に完全に準拠させました。
- トラフィック分析への対策: トラフィック分析によるノードの特定を困難にするため、すべてのピアメッセージを同一の長さにパディングする機能を導入しました(LND v21未満および現行のEclairを除く)。
謝辞
Core Lightningの進化は、コミュニティの力なくしては成し得ません。v25.12のリリースから110日間で、23名の著者による計421件のコミットがマージされました。この数字は、Core Lightningエコシステムの力強い勢いを象徴しています。本リリースを支えてくれたすべての貢献者に、深く感謝の意を表します。
特に、新たに加わった以下の貢献者の皆様を歓迎します。
@ScuttoZ, @Raimo33, @TatianaMoroz, @dovgopoly, @erdoganishe, @Nazarevsky
また、たゆまぬ努力を続けるBlockstreamのCore Lightningチーム(Rusty Russell, Shahana Farooqui, Sangbida Chaudhuri, Christian Decker, Lagrang, Peter Neuroth, Lisa Neigut, Daywalker, Níckolas Goline)、および拡張チームのメンバー(Oleg Fomenko, Ihor Diachenko, Illia Dovhopolyi, Mykhailo Khotian, Nazarii Shcherbak, Eduard Mikhrin, Zakhar Naumets, Vladyslav Doronchenkov, Emanuele Napoli, Federico Scutti, Mattia Simeone)に敬意を表します。
さらに、スプライシングの実装と仕様策定に多大な貢献をされた@dusty_daemon氏に対し、特別な謝意を捧げます。同氏は2021年からライトニング開発に専念し、2022年5月2日には世界初となるオンチェーン・スプライスの成功という歴史的快挙を成し遂げました。
最後に、絶妙なネーミングセンスを提供してくれた@chand-ra氏、そしてリリース・キャプテンとして冷静かつ着実に任務を遂行したSangbida Chaudhuri氏に感謝いたします。
そして、Core Lightningを支えるすべてのオープンソースコミュニティの皆様、ありがとうございます。
Go Forth and cln!
ノード運用者の皆様には、より洗練されたライトニング体験を提供するため、ぜひ最新版へのアップグレードとフィードバックをお願いいたします。